「若い頃の苦労は買ってでもしろ」なんて言葉をよく耳にします。
筆者のような捻くれた人間からすると、若者を上手いこと我慢させる為の建前的な言葉のような気もしてしまいますが、やっぱり運やタイミングに恵まれてサクッと成功してしまった人よりも、苦労の末に成功を手にした人の方が所属する業界で長生きできる印象があります。
お笑い業界なんてまさにそれで、一時はテレビで見かけない日は無かったくらいブレイクした若手芸人さんが、数年後には『あの人は今!?』みたいな番組に登場して「今は芸人を引退してラーメン屋を経営しています」なんてパターンをよく見かけます。
世に言う一発屋ってやつですね。
そんな皆様が必ずといっていいほど口にするのが「早々にブレイクしてしまったために引き出しが少なかった」、「下積み時代が少なかったため業界内での繋がりが弱かった」、「自分には才能があると勘違いしてしまい天狗になってしまった」などいった、自らの“経験値不足”を後悔する言葉ばかりなのです。
さらに通常の方々が成功するまでの間に「3歩進んで2歩下がる」ような地道な積み上げをしている訳ですが、サクッと成功してしまった方々は「100歩進んで80歩くらい下がる」くらいの落差があり、目の前に立ちはだかる壁の高さも半端ないのでしょう。
そういった状況の違いもあり、自ら歩もうとした分野での活動の限界を感じてしまったり、元々活躍していたフィールドとの落差に耐えきれず、その道を諦めてしまうって流れなのかもしれません。
確かに成功の大小に違いはあれど、苦労の末に何かを成し遂げた人達からは、何がなんでもその道で成功してやるという執着心や立ち振る舞いや言動に強い意志が感じられます。
こういった傾向を考えると「若い頃の苦労は買ってでもしろ」という言葉には確かな根拠があると考えられますね。できれば筆者は苦労なんてしたくありませんが。
前述させていただいた傾向は、筆者の愛する音楽業界にも当然あてはまります。
本日は、ひょうひょうとしているようで、その苦労がバンドのスタイルに滲み出てしまってやまない、『SUPER BEAVER』について書かせていただきます。
何かとメディアからの苦労押しが半端ない異例のバンド『SUPER BEAVER』
異例のメジャー再契約がメディアで話題のSUPER BEAVERさん。何かと、これまでの苦労が語られることの多い彼らですが、結成当初から苦労人バンドだったという訳ではなかったようで、2005年の結成元年には音楽コンテストの特別賞を受賞、翌年の2006年にはグランプリを受賞。頭角メキメキのSUPER BEAVERさんは、翌2007年に初のワンマンを行いソールドアウトさせております。そして2009年にSONY系列のレベールより見事メジャーデビューを果たしているのです。
ちなみに『SUPER BEAVER』と同じ2005年に結成された天下の『ONE OK ROCK』は様々なブーストもあったかと思いますが、メジャーデビューまでの期間は2年。2004年に結成されて1年先輩の『SiM』さんはメジャーデビューまで9年という歳月がかかっております。
このようにメジャーデビューまでの年数から考えるとSUPER BEAVERさんは、決して苦労人というイメージはなく、むしろバンドエリートに近いと判断され、前述させていただいた分類からすると、「さくさく成功」したバンドと考えてよいでしょう。
メジャー1STシングルである『深呼吸』は、SONYバンドの登竜門(勝手に筆者が思っているだけ)であるジャンプアニメの主題歌として起用される期待のされっぷり。
ワンオクを超高速出世したお笑い芸人『オリエンタルラジオ』とするならば、SUPER BEAVERさんは同期の『はんにゃ』くらいの出世株だったということですね。
ですがそんな快進撃も長くは続かなかったようで、2年後の2011年には契約終了。再びインディーズへの出戻りとなったのです。
筆者が前述させていただいたカテゴライズですと、こういったバンドは過去の栄光にすがりにすがってインディーズでの活動も上手くいかず解散して別の道に進んでいくか、自身のバンドはチマチマ活動しつつ、メンバー各々がサポートメンバーや楽曲提供、講師などで業界に残り続けるみたいなパターンが多く、1度メジャーで負けたバンドに対して熱量を込めて活動することが難しい印象がございます。
当然、メンバーの皆様も1度メジャー落ちしてしまうと2度と戻れない、今後の活動にも影響がでる、なんてことを散々耳にしてきたようですが、インディーズ落ちバンドとなったSUPER BEAVERは、まさかの超精力的な活動をするのです。1度は職業ミュージシャンとなった彼らがバイトバンドに逆戻りなんて現実は厳しいですね。
そんな泥臭さい地道な活動が再びSUPER BEAVERの人気を押し上げ、2020年には見事2度目のメジャーデビュー果たしたのです。しかも再契約先は古巣であるSONY MUSIC!!まさにミラクル!!再契約先であるSONY様からの皆様に対するメッセージは下記通り。
10年前に断腸の思いで離してしまったその手を、もう一度思いっきり伸ばし続けたら握り返してくれました。これから真心と誠意を持って、心を込めて4人の音楽をSUPER BEAVERを必要とする多くの“あなた”へ届けるお手伝いをしていきたいと思います。
引用URLSUPER BEAVERがメジャーレーベルと再契約「これからもより一層、何卒よろしく」(動画あり / コメントあり) - 音楽ナタリー
なんとも心が温まる内容ですね。もう手を離さない事を願います。
しかしながらインディーズに戻ってから数年で幾つかタイアップ曲があったり、大型会場でのライブを開催、さらにソールドアウトって実績から考えると、戦略的インディーズって印象もありますね。とはいえ自らの地道な活動で掴んだ成功ですので文句のつけようはありません。
『SUPER BEAVER』のライブ映像から見受けられる苦労感
本人たちはどう思っているかは知りませんが、スパービーバーって何かと苦労人バンドと紹介される事が多いですよね。
その理由に関しましては、先ほども紹介させていただように、1度はメジャーという華やかな舞台で活動していたのにも関わらず、その数年後には所属レーベルからの契約打ち切りによりインディーズに逆戻り、そんな苦難にも負けず地道な活動の末に再びメジャーのステージに舞い戻ってきた特殊な経歴って部分かと思われます。
確かに地道な活動が功をそうして念願のメジャーデビューという流れよりも、メジャーデビューからインディーズに戻る方が、壮絶な落差もあり当事者自身のダメージも大きいと思いますし、当然メンバーにだって1度はメジャーデビューしたバンドのメンバーというプライドだってあるでしょう。
さらには、ご家族だって親戚に「うちの子メジャーデビューしたのよ!!サイン?いいわよいいわよ!!特別よ!!」なんて感じに自慢してまわり、今度帰省した息子に書いてもらうための色紙を山積みにしているはず。
それがまさかのインディーズに逆戻り。
そんな全てを体験したバンドがスーパービーバーなのです。まさに苦労人バンド。夢を掴み取るために手を伸ばすよりも、掴み取った夢を手放す方が100倍辛い。だって夢が現実になったんだから。世の中には「夢は夢のままがいい」なんて表現する方がいるのも納得であります。
以上のように経歴やバックグランドを考えるだけで苦労人感の半端ないビーバーさんですが、そうした過去を隠しても、その苦労が滲み出てしまうのがライブパフォーマンスなのではないでしょうか?それでは参考にライブ動画をご覧ください
結成から15年という歳月を最前線で戦い抜いてきた正真正銘のライブバンド『スーパービーバー』だからこそ出来る見事なステージングの完成度は圧巻。
動画の1曲目に収録されている『青い春』が開始されるまでの僅か30秒の間に、当日来場してくれた観客の皆様に対するご挨拶から、本日のライブへの意気込み、バンド名の紹介だけではなく出身国から立ち位置、さらには定番の煽り文句からの、これから演奏される楽曲名の紹介までが流れるようなテンポで行われているのです。
こんな見事な煽りをされてしまったら否が応でもテンションが上がってしまうのがオーディエンスの性ってもんなのではないでしょうか?
そしてそんな高まった期待感を見事に爆発させるのが、彼らの最大の武器である表現力であります。
バンド最大の表現者であるボーカル渋谷はもちろんながら、メンバーひとりひとりが楽曲のテーマを泥臭くも全身全霊で表現しようとする姿はとにかく好感。
特にメンバーの表情がいいですよね。コーラスパートでもないのに叫ぶように歌う姿は、心にグッとくるものがありますし、スーパービーバーとしての演奏を心の底から楽しんでいる彼らの笑顔を見ていると、ついつい自分自身の表情も緩んでしまいます。
このような会場全体を自然にひとつにする彼らの高純度なステージングこそ、スーパービーバーの最大の最大の魅力なのではないでしょうか。
こういった技術はロックバンドの公演の良し悪しを判断する上で非常に重要なものでありまして、いくら人気曲を演奏しようとも、躍動感や熱量の乏しいライブではオーディエンスの皆様は物足りなさを感じてしまうのではないでしょうか?
「楽曲はいいけど、ライブは不完全燃焼」「次回ライブに行くのは新曲出てからでいいかな?」なんて風にファンに見切りをつけられてしまう事もありますし、せっかくフェスに出演しても、しょっぱいライブしか出来なければ新規のファンを獲得することもできません。
そんな多くの試練を乗り越え、バンドの主戦場である「ライブ」でファンを獲得し続けるバンドがスーパービーバーなのです。
わざわざメディアが報じなくても、ライブでのパフォーマンスやファンへの姿勢を見ているだけで、彼らの苦労が滲み出てしまっていると筆者は感じております。
メジャーでの挫折がなければ現在の『SUPER BEAVER』って存在してないよね
個人的にスーパービーバーの良いところって「シンプルな言葉」と「普通の人達」って部分だと筆者は考えております。
「普通の人達」なんて評価をすると、ボーカルの「渋谷」の80年代のチンピラみたいな奇抜な風貌や、多くのリスナーに支持される優れた楽曲のどこが普通人達だなんてツッコミを入れられてしまいそうですが、“普通”を受け入れることが出来た彼らだったからこそ、現在の成功があるのではないでしょうか?
まず1stアルバム『幸福軌道』の頃の彼らの作品って、歌詞も演奏も現在に比べると少し回りっくどい気がするんです。
「俺らは少し他とはちがうんだぜ?」「独自の世界観を持っているんだよ?」「わかりますかー?」「僕たちはミュージシャンなんですよ!!」「でも、ガチガチにクールなバンドって訳じゃないんで安心してください」と、流石に自らそこまで露骨に主張してはおりませんが、筆者のような歪んだ人間には『幸福軌道』は少しばかり「クリエイターとして常に独創的でいたい」といった気持ちが滲み出すぎてしまっている作品の気がします。
確かにミュージシャンとしてトントン拍子に成功しているタイミングですし、なんと言ってもまだまだ若いので自らの無限の可能性を信じるのは当然のこと。新たな世界を切り開くべく“創作”という先の見えない道を切り拓く挑戦者でなくてはならないのです。
記念すべきメジャーデビューシングル『深呼吸』のレコード会社からの推薦文からもスーパービーバーに対する期待が感じられます。
平均年齢20歳の男子4人組エモーショナルロックバンド「SUPER BEAVER」の、記念すべきメジャー第一弾シングル「深呼吸」は、常に挑戦するキモチを忘れない彼ら4人の「今」と「未来」への思いが詰まった、ソリッドで疾走感抜群の最新型ロックサウンド。
日々迷いながらも、「間違い」や「戸惑い」もすべて焼き付けて、抱えて、その先にあるであろう確かなこと=確かな自分を見据えて進もうとする気持ちが、Vo渋谷のエモーショナルかつ艶やかな歌でまっすぐに届きます。
引用URLhttps://www.sonymusic.co.jp/artist/superbeaver/discography/ESCL-3178
ですが、そんなレコード会社の期待とは裏腹に、彼らの“創作した世界観”は当時のメジャーシーンでは受け入れらなかったようで、契約は2年弱で終了。
彼らの活動は再びインディーズとなったのです。まさに絵に書いたような挫折。
一般的なバンドならば「俺達の音楽はメジャーでは中々理解し辛い」や「メジャーという制約のある世界では表現が狭まってしまい、自らの良さを伝えきれない」などと言い訳を並べ、あの時以上の成功は現在のバンドでは出来ないと解散や休止に向かうのが定番のパターンなのではないでしょうか?
自分自身のクリエイターとしての限界。誰だって認めたくないですよね。ですが彼らはそんな言い訳をすることなく、再びインディーズバンド“スーパービーバー”として活動し続けることを選んだのです。
しかしながら彼らは一度はメジャーで苦渋を飲まされた身、過去と同じスタンスでは同様の結果に行き着くのは必然であります。自らの限界を受け入れ、新たな音楽性を模索する必要があったと考えられるのです。
実際にそんな事を考えていたかは筆者にはわかりませんが、メジャーで挫折しインディーズでの活動に戻ってからのスーパービーバーの音楽性って妙に日常チックになった気がするんです。いうならば人生って奴でしょうか。
時には感謝、時には失敗をどこまでも人間臭くストレートに表現する彼らのスタイルは、メジャーデビュー当時の音楽性とは明らに変化している気がします。
ロックスターである彼らに対して普通の人なんて言い方をすると、やや語弊がありますが、自らの創造の限界を知り、我々と同じ日常を生きる彼らだからこそ、多くのリスナーに刺さる楽曲を作れるのではないでしょうか。言うならば人生に寄り添うバンドってところです。
名実ともにJROCKバンドの代表となったスーパービーバーが2016年にリリースした5thアルバム『27』。個人的には一番好きで聞いている作品です。
コチラのアルバムはまさに彼らの自己理解の集大成のような作品であり、1曲目に収録されているアルバムタイトルにもなっている『27』では、唄い出し早々「ロックスターは死んだ」なんてセンセーショナルな歌詞からスタートしておりますが、今曲は決して、ビーバーさんの憧れのロックスターが死んだことに対する追悼の歌でなければ、芯なの無い商業的なロックバンドに対する皮肉を歌った曲でもありません。きっと今曲で歌われている「ロックスター」は自分自身のことだったのでしょう。
まずタイトルである「27」という数字は、過去に人気のミュージシャンやアーティスト、俳優などが27歳に亡くなることが多々あったという部分から取られていると考えられます。ロックを志す人間からすると、なんとなーく特別な年齢であります。ロックを愛する筆者くらいの年齢の方々の中には「俺は27歳になったら死ぬんだ!!」なんて思っていた人も少なくはないのではないでしょうか。
こんな感じでビーバーさんの中にも本気かどうかわかりませんが極端にいえば27歳で生きている=凡人みたいな美学があったのかもしれません。
ですが、彼らは27歳になって死ぬ事はありませんでした。
先程説明させていただいた美学からすると、自らは特別な存在ではなかったという流れになるのですが、生きているからこそ、歳を重ねるたびに増え続ける様々な喜びがある事に気がつくのです。
こんな素晴らしい喜びがあるなら、自分達は特別な存在でなくてもいい。
そんな受け入れが「自らの理想の姿であったロックスターを目指す自分は死んだ」という感じで表現されているのかもしれません。メジャーデビュー当時の彼らの楽曲とは大分かけ離れた印象を受けます。
しかしながら、なんとも人間臭い彼らの楽曲は妙に胸に響くのです。特別な存在にはなれなかったけど、なんだかんだ今の自分には満足している、そんな人きっと多いですよね。
このような人間臭い音楽性にシフトすることができたのもまた、メジャー時代での挫折や苦労があったからこそなのではないでしょうか。