「 恐怖の大王がやって来て地球を滅ぼす」なんて予言がされていた1999年。多くの人々を不安にしたそんな予言も、幸いなことに的中することもなく、地球は今も回り続けている。
だが、恐怖の大王は予言通り地球に降臨していたのだ。
1999年にデビュー・アルバムをリリースすると同時に世界中の重音中毒者を虜にし、それまでのラウド・ロック界の序列をぶち壊した「SLIPKNOT」こそ、今思えば恐怖の大王だったのだろう。
本日は今やラウド・ロック界の頂点に君臨するバンドとなった「SLIPKNOT(スリップノット)」について、筆者が当時感じたことなどを含め書かせていただこう。
目次
- 9人の悪魔が変えた僕の音楽の世界
- 見た目のインパクトを超えた、強烈な破壊的サウンド 1STアルバム「SLIPKNOT」
- やや過剰すぎた演出の2ndアルバム「Iowa」
- 方向転換?聞かせるバンドとして生まれ変わった3rdアルバム『 Vol.3 The Subliminal Verses 』
- 王者の渋み漂う4tnアルバム『All Hope Is Gone』
- 落ち着いた「SLIPKNOT」はコレじゃないと思ったけど、今思えばコレが人生なんだな
9人の悪魔が変えた僕の音楽の世界
1999年にリリースされた「SLIPKNOT(スリップノット)」のデビュー・アルバム「SLIPKNOT」は、まさにセンセーショナルな作品であった。
作品については後述させていただくが、2000年前後に登場した粒揃いの海外アーティストの中でも、頭ひとつ飛び抜けた「特別なバンド」であったことは間違いのない事実である。
まず、「SLIPKNOT」の不気味な風貌が写されたCDジャケットに、心を奪われた
リリースは1999年6月29日。(国内での流通日は同時期?)ノストラダムスの予言とも近く、「恐怖の大王」を彷彿させる悪魔的なヴィジュアルは、CDショップの洋楽コーナーでも目を引くも のであった。
グロテスクなマスクを被り、囚人服のようなツナギを着たメンバーが写されたCDジャケットなので当然といえば当然なのだが、「SLIPKNOT」の存在を全く知らない若かりし筆者にとっては、不気味ながら魅力的なデザインであったことは間違いない。
「本当にこんなに沢山のメンバーがいるのか?どんな音楽なんだろうか?」などと考えながら試聴コーナーに向かい彼らの音源をチェックしたのだが、まさかここまで滅多打ちにされるなんて当時の筆者は思ってもいなかったはずだ。
見た目のインパクトを超えた、強烈な破壊的サウンド 1STアルバム「SLIPKNOT」
宇宙船での不安定な通信を彷彿とさせられるイントロ曲『742617000027』から始まる今作。
同じフレーズをシンプルに繰り返すだけながら、キーやピッチに変化が加えられており、リスナーの不安は徐々に増長していく。
まさにCDジャケットからイメージしていた通りの不気味な展開だ。
そして2曲目の『(Sic)』にて、「SLIPKNOT」というバンドのヤバさを実感させられた。
自らが爆心地にいるかと錯覚してしまうような、イカれたダイナミクスでスタートする『(Sic)』。
果てることのない「苦悩」や「怒り」、「憎悪」を撒き散らす彼らの「負の感情」が生々しくも鮮明に表現された断片の一つながら、今曲を聴くだけで「SLIPKNOT」という未知なる存在を理解するには十分であり、新世界の扉を開けたような感覚であった。
それもそのはず筆者の若かりし頃の国内シーンは、ハイスタの『MAKING THE ROAD』が発売され異例のヒットを遂げたメロコア全盛期である。
そんな中リリースされた当作『SLIPKNOT』は、明るく楽しいバンドサウンドを好んで聴いていた筆者の音楽世界をぶち壊し、広げてくれた「衝撃作」なのだ。
待望のライブ映像!!『 Wait And Bleed』
『 Wait And Bleed』を聴くたびに、「SLIPKNOT」のライブ映像を探していた当時を思い出す。現代子には理解し難い悩みではあるが、2000年前後のインターネット普及率は20−30%と低く、当然「YOUTUBE」などの動画共有 サイトも存在していなかった。そのため海外アーティストの情報を知るためには「メタル誌」や「ライブビデオ」を観るしかなかったのだ。
ちなみに1stアルバムがリリースされた1999年には「Slipknot - Welcome to Our Neighborhood 」というビデオがリリースされているが、当時は輸入CDショップなどしか販売しておらず値段も高価だったため、高校生の筆者には手の届かない品だったのだ・・・。
そんな彼らのライブ映像を手に入れたのは2000年の終わりだった。「ロードランナー・ジャパン」より発売された「ドリル・ザ・ビデオ」にて、筆者は初めて彼らの実体を確認したのである。
PVにも近いような映像ではあるが、彼らのライブ映像を見たことのない筆者は大興奮。収録曲も『Wait And Bleed』と最高の選曲!!本当にメンバー全員がマスクを被っているし、CDジャケット通りの大所帯だ!!さらにパフォーマンスもイカれている!!ドラム缶を改造したパーカッション!?ステージを所狭しと暴れまわるメンバー!!なんてカオスな世界なんだ!最高すぎると、何度も何度もビデオを再生したのはいい思い出である。
当時は苦労して手に入れた映像も、今ではYOUTUBEの「SLIPKNOT」の公式チャンネルにてアップロードされているなんて、本当にいい時代になったな・・・ちくしょう。
やや過剰すぎた演出の2ndアルバム「Iowa」
全世界を狂気の渦に巻き込んだ前作『SLIPKNOT』から約2年、各国の「蛆虫(スリップノットのファンの呼び名)」の皆さんが待ちに待った「SLIPKNOT」の 2ndアルバム『Iowa』がリリースされた。
前作の成功により、バンドとしての確固なる地位を築いた彼らの新作ということもあり、リリース前から注目を集めていた今作。セールスとしては前作には及ばなかったものの、さらに前面に押し出された狂気と暴力性を兼ね備えた楽曲は、多くのリスナーや評論家に支持され、今も「SLIPKNOTの名盤」と呼声も高い作品となっている。
だが個人的には、前作の『SLIPKNOT』の方がパンチが効いていたかなと感じてしまう。完成度でいえば圧倒的に『Iowa』に軍配が上がるのだが、その「完成度の高さ」ゆえに新鮮さや緊張感が失われてしまっている。そして一番の問題は「過剰な演出」なのではないだろうか?
「憎悪と怒りの象徴SLIPKNOT」というリスナーに支持されている部分は絶対に維持する必要はあるが、そんなイメージに寄せすぎしまった結果、楽曲からリアリティが失われエンターティメント色の強い作品となってしまっているのだ。まさにプロレスチックなコンセプトである。それらはイントロ曲「(515)」を聴いてもらえば理解できるはずだ。あ・・・やり過ぎだと。
方向転換?聞かせるバンドとして生まれ変わった3rdアルバム『 Vol.3 The Subliminal Verses 』
前作からさらに3年の月日が流れた2004年にリリースされた 『The Subliminal Verses Vol.3』。不仲が原因で、前作『Iowa』がラスト・アルバムになるなんて噂もあった「SLIPKNOT」だったが、見事に問題を解消し活動を継続。
なんだかんだ空白の期間は各自、別プロジェクトなどを行いファンの注目を浴び続けていた。まさかドラムの「ジョーイ」がギターを持って歌い出すなんて誰も予想していなかったけど・・・。
そんな様々な出来事があったからこそ今作では「いつまでも子供のままじゃダメだよね」ってな感じに、コンセプトの方向転換が感じられる作品となっている。そこら辺に関してはプロデューサーの変更という部分も大きいとは思うけど、結構変わりましたよね。
今作の聴きどころといえば、やはり過去作品では感じられなかった「ゴリゴリのギターサウンド」ではないだろうか?こんなに弾けたのね!!なんて失礼な感想を述べてしまうほど、今作ではギターのサウンドにフューチャーした楽曲が多い。ギターキッズとしては嬉しい限りです。いつかは忘れたが、過去には「ヤング・ギター」の付録のDVDにも出演していた記憶もございますので、当然、テクニシャンでございますよね。舐めていて申し訳ありません。
さらには、しっとりと歌い上げる曲まで用意されているあたりは、学生時代は手のつけられないヤンキーだった佐藤くんが更生したような印象。
「先生、俺、今度さ、子供が生まれるんだよね」
そんな、人の成長を感じさせてくれるアルバムが今作の『 Vol.3 The Subliminal Verses 』なのではないだろうか?
王者の渋み漂う4tnアルバム『All Hope Is Gone』
結成から8年という短い期間で、ラウド・ロックの帝王として君臨するまでになった「SLIPKNOT」。そんな風格を兼ね備えたアルバムが今作の『All Hope Is Gone』である。
作品全体のテイストとしては前作から引き続き「聴かせる」メロウなナンバーが中心となっており、初期作品の特徴であった行き場のない「狂気」は感じられないが、円熟期を迎えた彼らの奏でる「渋み」は必聴!!
だが、「SLIPKNOT」らしい楽曲のインパクトは薄く、完成度を追求した結果に持ち味であった躍動感を失ってしまった印象が強い。過去作品と比較すると安定感はあるが、一番印象に残られないアルバムだと思う。
落ち着いた「SLIPKNOT」はコレじゃないと思ったけど、今思えばコレが人生なんだな
ここ最近では、すっかり狂った印象もなくなり落ち着いてしまった彼ら。むしろ最近のインタビューなどを見ていると常識人ってイメージも定着しつつある。
若かりし筆者だったら「コイツらも売れてから丸くなっちまったな」なんて皮肉を言っていただろう。
実際のところ海外アーティストは活動期間も長いことが多く、いつまでもデビュー当時のインパクトを維持し続けるのも難しいし、ずっと同じ方向性ではマンネリ感も強まってしまう。だからこそ、どこかしらで転換期を迎える必要があるのだろう。それって勇気がいることですよね。